大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)1056号 判決

上告人

宮下建材工業株式会社

右代表者

宮下定雄

上告人

天野昭吾

右両名訴訟代理人

池田正映

被上告人

吉井輝二

被上告人

吉井千鶴

右両名訴訟代理人

馬場亀二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人池田正映の上告理由について。

民法七二二条二項に定める被害者の過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨とすべきではあるが、本件のように被害者本人が幼児である場合において、右にいう被害者の過失とは、例えば被害者に対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと解するを相当とし、所論のように両親より幼児の監護を委託された者の被用者の過失はこれに含まれないものと解すべきである。けだし、同条項が損害賠償の額を定めるにあたつて被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものである以上、被害者と一体をなすとみられない者の過失を斟酌することは、第三者の過失によつて生じた損害を被害者の負担に帰せしめ、加害者の負担を免ずることとなり、却つて公平の理念に反する結果となるからである。

原審の確定した事実によれば、城東保育園保母福山田鶴子の被害者一代を監護するについての過失が本件事故発生の一因となつているのであるが、一代の通園する右保育園と被上告人らを含む園児の保護者との間には、園児の登園帰宅の際には一定の区間は保育園側において監護の責任を受けもつ旨の取極めがされていたとはいえ、右福山は、一代の両親である被上告人らより直接に委託を受け被上告人らの被用者として一代の監護をしていたのではなく、城東保育園の被用者として本件事故当日一代その他の園児を引率監護していたに過ぎないというのであるから、右の事実関係に基づけば、福山は、被害者一代と一体をなすとみられるような関係を有する者と解することはできず、右福山の過失をもつて民法七二二条二項に定める被害者の過失にあたるとすることはできない。従つて、これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例